第34回研究会 講演報告
2011年度は,財団法人日本漢字能力検定協会より,講演に対して活動助成を受けました。以下はその報告です。
「『漢字系統樹』と『漢字イメージトレーニング』」
講演者:善如寺俊幸氏
(東京外国語大学留学生日本語教育センター)
講演報告:
漢字は三千年以上前に中国で誕生した文字であることは周知のとおりである。とするなら,各々の漢字には古代中国を背景にした壮大な誕生物語があるというのも頷ける話である。漢字の各パーツには一つ一つに意味があり,その組み合わせで構成される漢字の字義や字音を担ってもいる。そしてパーツの組み合わせ自体がそのまま漢字の創成を物語っていることも多いのである。
「漢字イメージトレーニング」は,そうした漢字の特性を利用し,最小単位のパーツから最大単位の漢字へと「漢字系統樹」を辿り漢字の誕生物語を学びながら包括的に漢字習得を目指す学習法である。漢字のパーツパーツに三千年以上歴史を遡って古代中国の社会や習俗,信仰の姿を透かし見ながら漢字をイメージする練習を積み重ねていくのである。そうすることによって漢字を通して物語られる,神々を祭る儀式や神の降臨や神に捧げる犠牲やその祭肉にまつわる世界が自ずと読み解けるようになろう。現代の硬化閉塞した科学一辺倒の,あるいは一神教的世界を越えて自由に古代に思いを巡らせ,古代世界を思い描く,白川静流に言えば「漢字の世界に遊ぶ」方法を会得するのである。
先に「弓」を知って,「強」が戦闘用の強い弓を表し,「弱」が装飾を施した儀礼用の弱い弓を表すことを知るという具合にである。
こうした「漢字イメージトレーニング」による漢字学習の最大の利点の一つは漢字の積み上げ式学習が可能になることである。習得が滞れば,既習のパーツとなる漢字を復習することによって解消できる場合が多いし,やがて漢字クラスを終えて独習しなければならなくなった際にも授業で学んだのと同様の方法で自律的に学習が続けられるようになっている。(以上『JSL漢字学習研究会誌 第4号』より抜粋)
詳しい授業の方法や「漢字系統樹」については『JSL漢字学習研究会誌第4号』を参照していただきたい。
(報告:アタシゴレスタン・マリヤム氏)
情報更新日:2012年04月18日