第36回研究会 講演報告

2011年度は,財団法人日本漢字能力検定協会より,講演に対して活動助成を受けました。以下はその報告です。

「年少者日本語教育における漢字教育」

講演者:石井恵理子氏(東京女子大学教授)

講演報告:
 子どもは大人と異なり,母語の基盤がまだ定着していない状態で学習,習得を行っているため,日本語の学習は子どもの日本語の力を広げていくという役割を果たしている。したがって,「子どもの全人の発達を支える」ことは年少者日本語教育の使命であり,年少者日本語教育における漢字教育も,子どもに文字あるいは言葉を教えるのだけではなく,言語能力の育成も担うべきである。
 
子どもの言語学習・発達は学校に入ってからではなく,幼児期の一次的言葉(生活言語)の獲得から,学齢期の二次的言葉(学習言語)の獲得にかけて,言語を習得していると考えられる。そして,幼児期から学齢期に渡る段階で,二次的言葉を獲得するための準備として,プレリテラシーの育成も重要である。一次的言葉と二次的言葉,話し言葉と書き言葉は相互に影響し合っているため,漢字学習を文字の学習という個人内認知活動にとどまらず,総合的な日本語教育のなかで考える必要があると思われる。
 
幼児期の漢字教育に関して,子どもの読み書き能力(リテラシー)の発達は文字の学習からではなく,子どもの日本語学習は「読む」,「書く」という行為の意味を認識することから始まり,「読む」,「書く」というような行為は自分にとって意味があると子どもに認識させることが重要であると思われる。この時期には,親との文字ゲームなどによって,子どもの文字意識と音韻意識を養うことができる。一方,学齢期に入った後の漢字教育においては,文字教育,語彙教育,リテラシー教育などが重要であると考えられる。
 
その他,日本語教育と教科教育の連携及び融和も重要な点であると考えられる。教科によって同じ漢字が使われる語彙は大きく異なっているため,国語科で学習した漢字の知識を他の学科知識と連合して応用することの重要性を認識すべきであろう。このように,国語で勉強した漢字の実用性を高めることができると考えられる。
 
最後に,漢字教育の中では,漢字を教えるだけではなく,子どもが漢字をどの程度学習できたか,漢字についての知識がどの面でまだ不十分であるかを確かめるために,スモールステップでの評価が重要である。つまり,漢字の字形,意味,読み,音声処理,漢字語の用法処理及び文脈処理など漢字の処理能力を考察する必要があると思われる。
                                (報告:魏娜氏)

情報更新日:2012年05月07日