第37回研究会 講演報告2
2011年度は,財団法人日本漢字能力検定協会より,講演に対して活動助成を受けました。以下はその報告です。
「常用漢字の書き方を独学でより早く身につけることについての偶感」
講演者:Heisig, James氏(南山宗教文化研究所第一種研究所員)
講演報告:
「あなたの両手を誰かの鼻腔に突っ込むことを想像してください。そして、脳を一度掴んでからグイと引き抜いてください」と言われたら,私たちはそこから一体どんな漢字を思い浮かべるだろうか。種明かしをすると,答えは「鼻」。
このように,あらゆる漢字を「構成要素」(Primitive Elements)と呼ばれる単位に分解し,1つ1つの漢字を固有の具体的な(時には、いささか強烈すぎるとも言える)イメージで覚えることこそが漢字の書き方を早く身につけることだとハイジック氏は述べる。「自」はoneself,「田」はbrain,「廾」はtwo handsという,それぞれの漢字に与えられた固有の「キーワード」を組み合わせ,冒頭に紹介したような「物語」が用意されていれば,「鼻」という漢字を覚えるのも,それほど難しいことではないように思えてしまう。特に英語母語話者を始めとした非漢字圏の日本語学習者が,漢字そのものに興味を持つようになることは容易に想像できる。
1976年に来日したハイジック氏は,「すべての常用漢字の書き方を短期間に,独学で,合理的に勉強したい」との思いから,ひとつひとつの漢字に対して,覚えやすい笑い話のようなストーリーを作って記録していた。それが,1977年の初版から計20万部も売れているというあの〝Remembering the Kanji“シリーズの基となっている。大人が漢字を覚えるなら,まずは「書く」ことから始めるという考え方のこの本で,学習者は漢字の読み方を全く知らないまま,その漢字が持つ「主な意味」と「イメージ」だけを覚えることになる。もちろん,それらから意味が推測できるようになっているものの,これまでの自分の漢字学習過程を振り返ると,本当にこの方法が効果的なのだろうかとも思ったが,一方では,日本人にあまりなじみがない言語,例えばペルシア語の文字が容易に「認識」できるようになるとは思えず,この点で,非漢字圏学習者の漢字の識別能力を鍛えるのは重要かつ必須のことに違いないとも感じた。
ハイジック氏は,漢字学習を妨げるものは,「教室」と「日本語の先生」の2つであり,「漢字を覚える」ということは「自分の想像的記憶力を強化すること」だと断言している。最近,ますます記憶力に自信がなくなりつつあり,また明日もこれまでと変わらず教室で漢字を教えるであろう日本語教師の私には,とても考えさせられる講演であった。
情報更新日:2012年04月20日